おおかみくん。【雪男】 (ページ2)

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始まりの日ページ2

最初はほんのちょっとのキッカケ。

｢いいな、かっこい…｣
｢なに、じゃあ応募してみる？｣

テレビを見ていてふと呟いた言葉。そんな小さな呟きに反応したのはお母さんで、それも希望をもたらしてくれたもの。
その時ダンスはスクールでやってたし、それなりに行けるんじゃないかと自己評価は少し高めで書類を送ったのだ。

結果、無事に書類審査は通過。
オーディションの日はあっという間で、緊張もありつつどこか余裕であろうとタカをくくっていた。
ちょっとオシャレして、でもダンスとか良く見えるようなもの。そうすれば多少目に留まるだろって。

そんなもの、実力の前では無に帰すだけだった。

一際上手いやつがいた。
何人かまとめてダンスして、実力審査だと理解するのにそう時間はかからなかった。1～5番までが既に行っていて、次はオレの、オレたちの順番になった時。少しくらい目立ってやろうとかちょっとした自信。だって、前の5人はオレより上手くないと思ったし。

でもそんな自信は無様に打ち砕かれる。前にいる審査員の大人たちは皆そいつのこと…7番を見ていた。少し空いて9番のオレが踊っていても、一度全体を見渡しても結局は7番に視線が戻る。観客を見ながら踊るスタイルのオレにはよく分かる。目立って、惹き付けているのは7番だって。見てくれる人もいるにはいる。ただやっぱりその人も7番を気にしている。

でも、それでもここで諦めたくは無い

ダンっと練習していた前宙を入れてみた。練習途中だったのもあって形は悪かったけど。視線がこっちに向いたのが分かる。

｢(やってみなくちゃ分からない…！)｣

無茶をしすぎると良くないって言うのはダンススクールの先生にも、マッサージしてくれる母さんにも言われてるからよく知ってる。でも、ようやく向いた視線を逃しちゃいけないんだ、やっとオレを見てくれたんだから

ぶつからないようにだけ気をつけながら、側転からバク転。アクロバットだけにならないようにヒットやアイソレも入れていく。

｢(いつもより上手くいってる！でもここで終わんねぇと…)｣

怪我の怖さを知ってるからこそのヤメ時。そうしてフリースタイルに戻ったときに、はいやめ。と審査員から終了の合図が出た。
さっきのグループも似た感じでいつ終わるのかは分からないままずっと踊っていた。それが同じようにオレのグループにも起こっただけ。
浅い呼吸を繰り返しながら、体のクールダウンに入った。